#おかしぃオーディオ

オーディオ製品の感想を書いていきます。たぶん

STAX SRM-D10 MK2 レビュー

STAXのポータブルドライバーユニット(アンプ)、SRM-D10MK2を買ってしまったのでレビューという名の感想を書いていきます。よろしくお願いします。

購入経緯

2016年末に初STAXとしてSR-L500とSRM-353Xのセットを買いまして、それから8年くらい日々使っていたのですが、なんとなくコンパクトで扱いやすいアンプ欲しいなぁって思いが生じ当時販売中のSRM-D10(先代機。現在は終売)を買おうかなぁと悩んでいたところ、SRM-D10MK2が発売すると聞いたので待ちまして発売後すぐに購入するに至りました。STAXシステムはDACとかの上流機器の音質差になにかと敏感で相性に悩まされがちなので、DAC一体型の本機はそこら辺どうなのか、メーカー的に相性ベストの音質に仕上げているのでは?と期待しておりました。

静電型ヘッドホン

SRM-D10MK2は世にも珍しい静電型ヘッドホン用のポータブルヘッドホンアンプです。静電型ヘッドホンとは何ぞや?って人のために説明しておきますと、静電型はコンデンサー型とも呼ばれ、その仕組は一枚の超うっすい振動膜をバイアスとして高電圧(STAX製品では580V)で帯電させ、それを両側に等間隔で配置した電極にこれまた数百Vの高電圧に昇圧した音声信号を流すことで子供の頃によくやったであろうプラスチックの下敷きを髪に擦り付けて持ち上げると髪が下敷きにくっついて一緒に持ち上がることでおなじみのあの力、つまり静電気力またはクーロン力と呼ばれる力によって振動膜が電極に引き寄せられたり反発したりを繰り返して振動、それが音声として耳に届けられる、というものです。

静電型のメリットはなんといっても振動板が軽いことによる応答速度の良さでしょうか。ダイナミック型や平面駆動型には振動板に音声信号流すボイスコイルや導電パターンがくっついておりそれが振動板を重くして慣性となって音声信号に対して応答速度を悪くする要因となるワケですが、静電型は厚さ1.数ミクロンという人生が変わる薄さを超えた薄さの振動膜一枚だけなので超絶軽く応答速度に優れ、さらに電極から振動膜全面に均一に駆動力が働くため歪が少ないといわれています。反面、駆動には高電圧が必要なので専用のアンプが必要になります。580Vとか人体のすぐそばで流してて感電とか大丈夫なのかと思われがちですが電流はほんの僅かしか流れないため、まぁ感電しても死にはしないでしょう。自分自身実際ずっと使ってきましたが感電らしい現象には遭遇したことがありません。風呂上がりとか夏場に筋トレして耳びっちょびちょな状態で使うとかなら分かりませんが。

音質の特徴は柔らかで繊細な印象で、応答速度の良さゆえか微小な音の再生が得意で演奏会場の空気感や倍音成分が際立つ事による艶っぽさの表現に優れていると思います。なので、スタジオでなくホールとかで生楽器を演奏した録音作品あたりがとても向いていて聴いていて生々しいと感じられます。一方で艶っぽさに優れているということで人の声もより艶っぽく色っぽく聴こえるので、アニソンとか声を楽しむ作品にも向いています。今はどうか知りませんが昔はエロゲにおすすめのヘッドホンとしてSTAXがよく挙げられておりました。

原理も構造も単純なのですが、いざ製造となるとめっちゃ精度が要求される様で先ず振動膜を弛まず均一に張る必要があり、さらに両側にある電極も完全といえるレベルの平面で作る必要があり、さらにさらに振動膜と電極を完全といえるレベルの平行になる様に、なおかつ振動膜と電極の間隔は近づきすぎると触れてショートを起こし、離れすぎると駆動力が激弱くんになってしまうので近すぎず離れすぎずの絶妙な間隔で組み付ける必要があります。超大変。そのためSTAXでは発音体はホコリひとつ許さない厳密に湿度温度管理されたクリーンルーム内において職人の手作業で作られており、大量生産が困難であることを物語っています。またヘッドホン・アンプともに高電圧を扱うため、ダイナミック型とか他の形式とは大きく異なる開発ノウハウが要求されます。これらの要因のためか、現在STAX社以外でもAUDEZEやDan Clark Audioなど静電型を作ってるメーカーはありますがどれもフラッグシップを超えたメーカーの技術力アピールつまりステートメントモデルとして位置づけられておりとんでもなく高価で販売されております。ゼンハイザーのHE-1とかほんま値段マヂヤバいっスよアレは。その点数万円で手に入るエントリーモデルから用意されているのはSTAXだけでしょう。

STAX

STAXのコト知らねぇって人に簡単に説明しておきますと、STAXは1938年に昭和光音工業株式会社の名で設立され、レコード用のカートリッジやトーンアームなどの音響機器を製造しておりました。1960年に世界初の静電型ヘッドホンSR-1を発売、以後SR-XやSR-Λといった多くの種類の静電型ヘッドホンを作っていきました。途中でSTAXと社名を変えたり静電型スピーカーやクソデカパワーアンプ(大きい。)や据え置きなのにバッテリー駆動のDACを出したり倒産しちゃったり即座に有限会社として復活したり中国資本に買われちゃったりと色々ありまして現在はヘッドホンと専用アンプの製造に専念しています。なお、STAXでは同社の静電型ヘッドホンをイヤースピーカー、専用アンプをドライバーユニットと呼称しています。覚えておきましょう。

本社は埼玉県にあり現時点では事前予約すれば誰でもSTAX製品の試聴が出来るそうです。平日限定なので有給取ってでも試聴しにいきましょう。まだ製品紹介してないのに2000文字いくのウケますね。

SRM-D10 MK2

本機は世界初といえる5PINプロバイアス静電型ヘッドホン対応ポータブルDACアンプことSRM-D10の後継機にあたります。先代との変更点はDACチップをES9018?からAK4493に刷新したのと音声データと電源入力をUSB-Cにしたことです。あと見た目。ボリュームが先代ではシルバーだったのがSRM-D10MK2ではガンメタリックとなりより精悍で戦闘力アップ感のある見てくれになりました。ところでSRM-D10MK2の名称ですが本体や外箱にはSRM-D10IIとあり、保証書やメーカー公式ページではSRM-D10MK2なのでどちらの名称を使えばいいか検索的に混乱してしまいます。

スペックはUSB入力は最大384kHz/24bitPCMおよびDSD256に対応。アナログ入力にも対応。バッテリー持ちはUSBで3.5時間、アナログで4.5時間だそうです。実際使っててもそれくらいの持ちだと思います。

気になった点はMK2になってDSD256に対応したのは良いですしドライバも用意されてはいるのですがどうやらWin8.x以前のPC向けの様でWin10以降のPCにはドライバが用意されておらず、結果WASAPIでDoPとして送ることになるんですが対応PCMサンプルレートが384kHzまでなので結局DSD128までなのが残念なところです(DSD256をDoP伝送するには768kHz対応が必要です)。元々ASIO使えないMacは言わずもがなです。そうなるとどうなるかですがDSDダイレクト出力の使えるDAPOnkyo HF入ってるスマホを接続すればDSD256が聴けるワケです。もしかするとDiretta ASIO使ってDiretta経由すればワンチャンPCでもDSDダイレクト伝送出来るかもしれないと頭の中で思ってるんですが思ってるだけで試してません。実際試すとしてもDiretta Target機器けっこう高価ですし、そこまでするくらいなら別個にDSD256対応DAC買ったほうが良い気がします。ちなみにフォーマット識別用のインジケータ的なものは搭載されてないので送り側の機器でうまいこと判別してください。

外観

購入したやつなので外箱から紹介です。黒地に金文字は高級感を出すには定番の表現でがやっぱ高級感があっていいですね。初見なんだかクレーンゲームの景品みたいだと思いました。

箱から出すと黒い包装紙に包まれた中身が出てきました。シールが止められておりこれを剥がすことで開封したかどうか容易に判別できるというワケですね。私はこういう包装は破らず慎重に開けるタイプなのでこれも慎重に開けましたが破れました。不器用かよ。

包装紙を開けた姿です。本体デザインと同じ様な斜めの線が描かれているのが印象的ですね。そんで玉手箱みたいに上蓋をあければ本体とご対面できます。

箱の中身です。本体と付属品と取説です。付属充電器がPD65W対応となにげに高性能なほか海外用コンセントアダプターまで付属している充実ぶりが伺えます。

本体です。大きさは一般的なスマホを3~4台重ねたくらいでしょうか。STAXの据え置きアンプって中級機以上はデカくてそのデカさで敬遠している人もいるくらいですがSRM-D10MK2ぐらいの大きさならデスクトップに置いても邪魔にはならないかと思います。見た目はポータブルながらSTAXらしい精悍な…STAXらしい精悍さって何だよって思われますがSR-009とかX9000みたいな華やかではないけれど細かなパーツが精巧に組み上げられたようなメカメカしさがあります。本体の大部分を占める斜めの溝模様が目を惹きますがSTAXロゴはもちろんボリューム目盛りまでもが凹み加工なのが渋くて良いですね。作りはガタツキやズレといったものは無く、面取りも問題なしで良好。唯一5PINコンセント周囲がエッジそのままだったのが気になります。普通に使っていれば触れるような部分では無いので難癖っちゃ難癖ですが他が完璧だっただけに気になりました。

本体前面は左から5PINコンセント(580Vバイアス専用)とインジケータランプと電源スイッチ兼ボリュームダイヤルがあるのみです。コンセント挿抜は据え置き機に比べ緩めな感触ですが抜けやすいわけではありません。インジケータはバッテリー動作中はUSBモードで青・アナログモードで緑、充電中は動作状況関わらず赤になり、充電終了とともにバッテリー動作時と同じ光り方になります。ボリュームはポットで若干のガリノイズが見られますが小音量時のギャングエラーは気になりませんでした。

本体後面は左からアナログ3.5㍉入力、USB音声入力、入力切替スイッチと電源入力です。電源はUSB-PDにて最大15V3Aに対応のこと。試しにUSB電流チェッカーで測ってみたら充電しながらのUSB入力での音出しして15V1.6~1.7A程度の消費でした。30Wのちっちゃめな充電器でもイケそうな雰囲気がします。

本体裏面は表面と同じ溝模様とシリアルとかの表示があるだけで他は何もありません。何もありません。そう、ゴム足すらもありません。なのでポータブルで使うにはバッグからの出し入れでゴム足が引っかからないで良いかもしれませんがデスクトップで置いて使うとなると滑りやすかったり本体や接地面に傷が付きそうなのが気になります。私はとりあえずDAPとポタアンをスタックする用のシリコンバンドを巻いておきました。これなら滑り止めになりますし、そのままDAPとスタックしても良いしで一石二鳥なので付属してくれるとありがたかったです。ちなみに使用中の本体はちょっと素手で保持するには火傷しそうなくらい熱くなるのでDAPとかスタックするには注意が必要です。

音質

ひとまず我が愛機のSR-L500でUSB入力で聞いてみました。

 

すげぇ!ラムダ聴きながら台所に立てる!!すげぇ!!!

 

…気を取り直して、音質の前にまず気になったのが音量の低さでしょうか。アナログに2V入力したときにボリューム位置10時なのがUSBだと同じ音量を出すのに12時くらいに回す必要があります。ポップスとかならそこまで気になりませんがクラシックのオーケストラの最新ハイレゾ録音だと音量不足になるかもしれません。なんとなく内蔵DACの出力ゲインが低めに設定されているような気がします。イヤホンタイプのSR-003MK2や今後登場予定のSR-X1(仮)*1なら感度が高めで大丈夫でしたがラムダ系などの大型イヤスピーカーだと注意が必要です。

音質ですがポータブルながら軽いサウンドにならず中級据え置き機と同様の力強さを感じました。解像感は良好でそれでいながらシビアにならず角が立たないように丸く収めていて、音源はそこまで選ばない仕上がりになってます。なのでポータブルにとどまらず据え置きの入門機としてゲームや動画のお共としてカジュアルに付き合える良さがあります。空間表現は奥行き感はあまり無く、目の前に演奏音が左右に並んでいる感じです。音が近いといえます。

次にアナログ入力モードに切り替えて、EarMen Angelのライン出力2V固定と繋いで聞いてみました。

前述の通り、USBよりも音量が大きくなります。2V入力ですが音が歪んでる感じも無くアンプ本来の音量が出ている感がします。無音状態でボリューム全開してみましたがノイズは聞こえませんでした。優秀です。

音質は解像感がぐっと向上、一枚ベールが剥がれたみたいに質感とか表情が聴き分けられるようになります。音場も奥行きが感じられる様になり、SRM-353Xのときも思いましたがやっぱこの組み合わせ良いわぁ~ってなりました。反面やや音源の粗さが目立つようになるので気軽に使うなら内蔵DACの方が良いと思います。SRM-D10MK2のアナログ入力は単に利便性の為に付けたオマケなんかではなくアップグレードパスとして十分機能していると思います。それだけアンプ本体の素性が優れているとも言えます。

SRM-353Xとの聴き比べです。上流は同じEarMen Angelです。

音量は両者とも同じくらいです。驚きですね。低域の厚みはSRM-D10MK2の方があってパワフルな印象です。SRM-353Xはスッキリとしている傾向で、前後左右の音の広がりはこちらの方があります。ツヤっぽさと空気感といった出音に生々しさを感じさせる表現も353Xの方が良いでしょうか。D10MK2は比較してニュートラル気味。ポータブルとして屋外で使うならSRM-D10MK2のが音質的にも向いているように思います。屋外で使えるものなら。音漏れとかやばいけど。

現実的にSTAXをアウトドアで使うならイヤホンタイプのSR-003MK2との組み合わせだろうとのコトで以前から発売されているSRS-002ポータブルセットとの聴き比べをしてみました。SRM-D10MK2は内蔵DAC、SRS-002はDAPにSR25MKIIをライン出力として合わせました。どちらも密閉カバーとイヤーピースCES-A1を装着しての聴取です。

SRS-002は全体として軽快なサウンドです。音量自体はかなり大音量が出せるのですがなにぶん乾電池2本での駆動なのか低域の重量感は乏しい印象です。大音量にすると中高域の暴れも気になります。ただ艶っぽさや繊細さといった静電型の良さはこのセットでも十分感じられるのが改めて凄いと思いました。

SRM-D10MK2とSR-003MK2との組み合わせでは一転して低域に重量感があり大音量でも暴れない安定感があります。そんでもって音場もパーッと広く感じられる様になるしでなんというかこのイヤホンタイプのイヤースピーカーのポテンシャルをフルに発揮している感があります。DAC内蔵してるお陰でスマホとかでもこの音質が得られるしサイズと価格を許すなら断然こちらがオススメでしょう。

まとめ

以上、SRM-D10MK2の感想でした。手軽にSTAXサウンドが楽しめるという点で言えばポータブルだけにはとどまらず据え置きの入門機として十分オススメ出来る機種だと思います。STAXシステムは往々にして上流機器の差が音質に現れやすいためDACやプレーヤーの相性に悩まされがちですがその点DAC内蔵の本機はそういった事は考えなくて済みますし、音質もパワフルで高解像ながらソースを選ばない付き合いやすいもので日常使いにも最適です。一方アナログ入力はSTAX機器らしく上流機器の違いが現れやすいのであえて相性に悩まされるのもアリだと思いますし将来上流にナイスなDACを使うようになっても十分対応出来るかと思います。むしろDACがオマケなのでは…?と思ってしまいました。

あとは気になるのは発熱の大きさで夏場はたしてどうなるかが気になります。

買ってよかったです。

おわり

*1:イベントで参考出展品を試聴した感想です。製品版とは異なるかもしれません。